表紙 前文

 

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琉球語の語彙集:あ

 

蜻蛉(ああけえづう):dragonfly

:普通は、蜻蛉(ああけえじゅう)と発音するようである。共通語の古語では、蜻蛉(あきづ)という。日本書紀に登場し、「阿岐豆」と表記されている。万葉集の376と3314に登場する。蜻蛉(あきづ)は日本国の別称であり、「蜻蛉島」とも呼ばれていた。琉球語では、「け」が「き」と発音されるのが通例であるが、この場合逆になっている。理由がわからない。「ああきいじゅう」が発音しづらいのか。

 

石蓴(ああさ):seaweed

:緑藻類の海藻。日本全国で取れ、青海苔の代用となる。共通語では、石蓴(あおさ)という。おもろさうし・1193に登場する「のり」は石蓴(ああさ)のことと思われる。乾燥したものがスーパーで売られている。味噌汁に入れるとおいしい。

 

合(ああ)し鏡(かがん):double mirrors

:共通語では「合わせ鏡」という。江戸時代からの言葉のようだ。うしろ姿を見るために、前後から鏡を合わせて見ること。谷崎潤一郎の「蓼食う虫」に登場する。

 

股這(ああたば)い:to walk with spreading legs

:またぐらの痛い時など、またを横に広げるようにして歩くこと。蛙のことを「あたくう」とか「あたびち」という。関係があるかもしれないと「沖縄語辞典」にある。

 

姉(あばあ):sister

:農民の言葉らしい。士族では「ぅんみい」、平民は「あんぐぁあ」という。

 

溢(あば)ちゅん:to have too much

:たくさんの着物・大きすぎる着物などを着てもてあます。日葡辞書に「あばく」とあり「余る」「もてあます」という意味。

 

虎魚(あばし)(あばさあ):porcupine fish

:魚の名。刺がたくさんある。おてんばのことを「あばし」と言うが、とげとげしいという意味か。ふっくらとしてフグのようなゴーヤーを「あばしごおやあ」という。

 

叫(あ)びゆん:shout

:大声でさけぶこと。犬・猫・豚などが鳴く場合にもいう。共通語との関係が不明。

 

畔(あぶし):ridge

:たんぼの畔(あぜ)のこと。旧暦四月に行なう田の祭りを「畔祓(あぶしばれ)え)」という。稲の穂が実って畔を枕にすることを「畔枕(あぶしまくら)」といい、「豊作」を意味する。畔道(あぶしみち)は畔道のこと。

 

熱飯(あちびい):soft boiled rice

:柔らかい御飯。おかゆと御飯の中間ぐらいの、子供・病人に食べさせる御飯。ご飯はどのように炊いても失敗はない。

 

飽(あ)ち走(は)い仕事(しぐとぅ):tired work

:あきてしまうような仕事。

 

熱(あち)香香(こおこお):fresh and hot

:煮えたばかりのさま。料理の熱いうちに。「こうこう」の語源がよくわからない。

 

商(あちね)え:business

:商売。商(あちね)え物(むん)は、商品。商(あちね)えん人(ちゅ)、商人。

 

温(あち)らし返(けえ)さあ:to fry again and again

:何度も暖め直した食物。今は電子レンジがあるのでこの語の意味がよくわからないだろう。

 

徒(あだ):vain work

:徒労。徒労に終わることを「徒(あだ)成(な)たん」という。

 

敵(あだ):enemy

:かたき。あだ。かたきを討つことを「敵(あだ)打(う)ちゅん」という。

 

阿旦(あだん):

:たこのき科の亜熱帯性常緑灌木。気根を生じ、葉は細長く、とがり、刺がある。葉からござ・帽子などを作り、気根の繊維は縄などにする。本土からの観光客が阿旦の実をパイナップルと間違える。阿旦葉筵(あだんばあむしる)とか阿旦葉草履(あだんばあさば)などが昔はあった。

 

踵(あどぅ):heel

:「かかと」のことを「あどぅ」という。語源はわからない。

 

足掻(あがちゃ)あ:hard worker

:労働者。筋肉労働者。まさに足掻(あが)く人々である。

 

足掻(あが)ち働(はたら)ち:hard work

:一生懸命働くこと。精出すこと。

 

上(あ)がい端(はな): just rising sun

:日の昇りはじめをそういう。

 

上(あ)がい太陽(てぃいだ):rising sun

:朝日。上る太陽。「上(あ)がい太陽(てぃいだ)どぅ拝(うぅが)むる、下(さ)がい太陽(てぃいだ)あ拝(うぅが)まん。」人は上ってゆく太陽は拝むが落ちていく太陽は拝まない。太陽(てぃいだ)は琉球語では権力者のこと。

 

東(あがり):east

:東。太陽が上っていく方角をいう。太陽が沈む方角は、「入(い)り」で西のことである。

 

上(あ)ぎ回(まあ)しゅん:to hasten

:せきたてること。

 

倦(あぐ)むん:to have too much

:できずにもてあます。共通語では「倦(あぐ)む」である。太平記に登場する。

 

兄(あふぃい):brother

:兄。にいさん。平民がつかう語

 

鶩(あふぃらあ):duck

:あひるのこと。

 

蟻(あいこお):ant

:蟻の小児語。「こお」の語源がわからないが小さいという意味か。

 

母(あやあ):mother

:母。おかあさん。士族についていう。平民は「母(あんまあ)」。

 

肖(あやかあ)ゆん:to have a luck with someone

:共通語の「肖(あやか)る」に相当する。

 

赤花(あかばなあ):red hibiscus

:ブッソウゲ。赤いハイビスカス。

 

赤瓦(あかがあら):a roof of red tile

:赤瓦。昔の瓦屋根は富の象徴であった。

 

赤裸(あかはだか):stark naked

:共通語でもそういう。

 

明(あ)かい:paper screen door

:障子。あかり障子。襖障子に対しての語。明かりが通るように紙をはった障子。

 

赤豆(あかまあみい):reddish small beans

:小豆のこと。

 

赤又(あかまたあ):snake

:蛇の一種。いちおう有毒である。

 

赤身(あかみい):yolk

:卵の黄身。確かに赤っぽい黄身もある。

 

赤菜(あかな):perilla

:紫蘇。赤っぽい紫蘇のこと。

 

赤子魚(あかんぐぁあいゆ):dugong

:人魚。ジュゴンのことであろう。

 

離(あか)りゆん:leave

:離れる。共通語の古語では「離(あか)る」。「分かれる」は二つになること。「「離(あか)る」は多数になること。

 

赤太陽(あかてぃいだ):red sun

:赤い太陽。夕日のこと。

 

赤銭(あかじな)あ:copper coin

:銅の一厘銭。今では死語である。復帰前に使用していた1セント銅貨をこう呼んだ。アメリカでの通称は「penny」である。

 

あきさみよお:Oh my god!

:非常に驚いた時、悲しい時、苦痛に耐えない時、救いを求める時などに発する語。語源はもちろんわからない。目が「開けて」目が「覚める」ようだという感じはする。

 

芥(あくた):trash

:共通語と同じ意味である。

 

雨乞(あまぐ)い:to pray for rain

:沖縄にも雨乞いの風習はあったようだ。雨乞いは必ず実現する。なぜなら雨が降るまで続けるから。(民俗学者のことばである。)

 

彼処(あま)走(は)い此処(くま)走(は)い:to run about

:あちこちかけずり回るさま。

 

彼処(あま)言(い)い此処(くま)言(い)い:to talk at random

:話し方が整然としないさま。

 

甘世(あまゆう):rich year

:豊年。

 

彼処此処(あまくま):here and there

:あちこち。あちらこちら。

 

甘酒(あまざき):vinegar

:酢のことを琉球語ではこういうらしい。

 

雨垂(あみだ)い:eaves

:軒。軒下。

 

雨降(あみふ)い擬(ぎ)さん:It looks like rain.

:雨が降りそうである。

 

アメリカア:American

:アメリカ人。卑称であるがそういう感じはしない。

 

土手(あむとぅ):bank

:土手。「六十(るくじゅう)余(あま)れえ土手(あむとぅ)ぬ下(しちゃ)。」ということわざがある。昔は60歳を過ぎると土手の下に捨てたらしい。これは60歳以上の人が自分を卑下して言った言葉である。

 

油口(あんだぐち):flattering

:おせじのうまいこと。油を塗ったようななめらかな甘言。

 

油糟(あんだかし)い:left fried fat

:豚の脂をしぼって取ったかす。食用になる。スーパーに売っている。小学校のころ我が家はラードを使っていた。野菜を炒めるとおいしい。出来立ての油糟(あんだかし)いは目のさめるような熱さである。

 

油味噌(あんだんすう):fried soybean paste with oil

:味噌を油いためしたもの。味噌の中には肉などを入れる。

 

脂強(あんだぢゅう)さん:much fatty

:脂っこい。

 

姉小(あんぐぁあ):sister

:姉。ねんさん。平民についていう。

 

鮟鱇猫(あんこおまやあ):cat with glittering eyes

:目を光らした、すごい猫。

 

母(あんまあ):mother

:母。おかあさん。平民についていう。士族の母は「母(あやあ)」。

 

あんまよお:Oh my gush.

:あれまあ。びっくりした時、つまづいた時などに、女・子供などが発する語。「おかあさんよ」の意味であろう。

 

気悪(あんま)さん:to feel sick

:気分がわるい。頭が重い。語源がわからない。

 

焙(あん)じ紙(かび):paper to burn

:彼岸その他の祭祀の時、祖先を祭るために燃やす、銭型を打った紙。昔は各家庭で鋳型を持っていたようだが今は出来上がったものがどこのスーパーにも置いてある。

 

俄(あ)った降(ぶ)い:shower

:にわか雨。俄(あっ)た、は「あっという間に」の「あっと」と関係ある語か。

 

俄(あ)ったに:suddenly

:にわかに。不意に。いきなり。突然。

 

朝飯(あさばん):lunch

:正午ごろ食べる食事。もとともは朝に食べていたのだろう。昼に食べるようになっても朝飯(あさばん)である。

 

蝉(あささあ):cicada

:せみの一種。羽が白い。

 

遊(あしば)あ:profligate

:遊び人。遊蕩人。

 

足駄(あしじゃ):wooden clogs

:下駄。

 

蛙(あたびち):frog

:蛙。土色の小さいもの。

 

当(あ)たい前(めえ):of course

:あたりまえ。普通。

 

蛙(あたくう):frog

:蛙の一種。青蛙。

 

後成(あとぅな)い先成(さちな)い:to go forward and backward

:あとになったり、先になったり。相前後して。